Skandia |
スウェーデン、フィンランド、イラクの共同製作によるこの映画は、1990年代のイラクに住むクルド人の幼い兄弟が主人公として描かれています。監督そして脚本は、クルディスタン出身で、現在はスウェーデンに住むカールサン・カーデル(Karzan Kader)です。
まず映画の感想から言うと、「素晴らしい!」
映画を観る前にちょっとだけ予習をしたとはいえクルド問題などについてもあまり知識がなく、映画はクルド語に英語字幕。「分からなかったらどうしよう…?」と少し心配でしたが、映画が始まるとあっという間に映画の世界に引き込まれてしまいました。
<あらすじ>
1990年代前半、イラク北部にあるクルド人の自治区、クルディスタンに住む2人の兄弟。兄のダナ(Dana)と弟のザナ(Zana)は両親がおらず、村の人に助けられ、働きながら生活をしています。当時のイラク大統領サダム・フセインはクルド人への支配と弾圧を強め、その政権はクルドの人々を脅かしていました。そんな頃、村で1本のアメリカ映画が上映されます。その映画は『スーパーマン』。『スーパーマン』の上映をこっそり覗き見たダナとザナの2人はスーパーマンの住むアメリカに引っ越すことを決意するのです…。
photo : stockholms filmfestival |
この映画の魅力はストーリーはもちろんのこと、主人公である2人の少年たちです。この子たちなしにはこの映画の素晴らしさは語れません。
この2人は子役などではなく、全くの素人。監督が現地を訪れ、学校や児童施設などを回り、何千人もの子どもたちに会った中から選ばれたそうです。
弟のザナは何に対しても一生懸命、真っ直ぐで純真な6歳男の子、その全力投球っぷりには、お兄ちゃんはしばしば手を焼きます。兄のダナは10代前半と思われるのですが、弟に比べ社会の厳しさなども理解しており、自分たちはこのままではいけない、と感じています。幼いながらも弟を守って生きていこうとするダナと夢に向かって一直線のザナ、この2人のセリフひとつひとつ、表情ひとつひとつに心を掴まれます。そして、ありきたりな表現かもしれませんが、この2人の瞳の美しさ、力強さに何度もハッとさせられました。
この映画を観ていて思い出したのが、自分自身の子どもの頃。わたしは2人姉妹の妹で、いつもこのザナのように姉の後をついてまわっていました。毎日のようにケンカするくせに、「ねえちゃん、ねえちゃん」と姉につきまとい、姉はうっとうしがりながらも、そんなわたしの面倒を見てくれていました。
映画観賞後、監督のインタビューを読むと「この映画を観た時に、自分自身の兄弟のことを思い出して欲しい」と書かれていました。そしてその文章は「そして自分の兄弟、友人、同僚など自分や自分の夢をサポートしてくれている人たちとの繋がりを大切にすることの大事さを感じて欲しい。」と続いています。姉のことを思い出したわたし、監督の思うツボです。
監督のカールサン・カーデルは1982年にイラク北部のクルディスタンで生まれ、8歳の時に家族と共に難民としてスウェーデンにやって来たそうです。クルディスタンに住んでいた時のことを「近所の人も殺されたし、いとこや親戚も殺された。毎日の通学路にはフセインの兵士たちがいて僕たちを追い回していた。教室でも兵士たちがクルド語ではなくアラビア語で勉強しているか監視している。それは酷い弾圧だった。兵士たちは夜中に急に家に入ってきてすべてを破壊して、そしてまた出て行くんだ。」と語ります。そんな時に幼いカールサンが観たのが『ランボー』。彼はザナやダナが「スーパーマンは本当にいる」と信じたように、ランボーは実在していると信じ、自分たちの所に来てくれるのを願ったそうです。この話しからも分かるように、映画『Bekas』はカールサン自身とその兄の子ども時代の話しを基にして作られたのです。だからこそ、映画の中のちょっとしたエピソードなどがリアルに感じられ、子どもたちのイキイキとした姿を撮ることが出来たのでしょう。
実はこの映画、初めは30分の短編映画でDramatiska Institutet(現在のStockholms dramatiska högskola / 英:Stockholm Academy of Dramatic Arts)の卒業制作として作られました。2010年には学生アカデミー賞(Student Academy Award)、外国映画部門で銀メダルを獲得。2010年ストックホルム国際映画祭では1km Film部門でHonorable mention(選外佳作)を受賞し、その他にも様々な国際映画祭で賞をとっています。
ワールドプレミアの上映は前述したようにストックホルムのスカンディアで行なわれました。このスカンディア、以前『ストックホルム国際映画祭・ジュニア』の記事でもお伝えしましたが、あのエーリック・グンナル・アスプルンド(Erik Gunnar Asplund)が手がけた建物。中はとても広く、座席は572席あるとのことですが、それがほぼ満席になっており、映画が終わった時にはその満席の会場から大きな拍手が沸き起こりました。会場の雰囲気や周りの人たちからもその感動が伝わってきます。
上映後には、監督の話しを聞き質疑応答ができる、映画祭のイベントのひとつでもあるFace2Faceが行なわれ、その中で、撮影時の裏話や弟のザナ役の少年は普段も元気いっぱいで、とにかく子ども相手の撮影は大変なことなどのエピソードを聞くことが出来ました。
終了後、わたしたちも監督と少しだけですがお話しをすることが出来ました。聞きたいことなどは色々あるはずなのに、いざ本人を目の前にすると「本当にすごく良かったです!!」というような言葉しか出てきません。30歳とまだまだ若い監督はとても気さくでニコニコと話す様子は普通の若者といった感じ。監督の話しによると、もう既に日本の会社がこの作品を買っており、いつかはまだ分からないけど公開も予定されているとのこと。最後に写真を撮らせて頂こうとしたら「じゃあ、一緒に撮る?」「僕が真ん中ね。」と記念撮影に。3人で撮った写真は宝物にしたいと思います。
この映画を観ていて思い出したのが、自分自身の子どもの頃。わたしは2人姉妹の妹で、いつもこのザナのように姉の後をついてまわっていました。毎日のようにケンカするくせに、「ねえちゃん、ねえちゃん」と姉につきまとい、姉はうっとうしがりながらも、そんなわたしの面倒を見てくれていました。
映画観賞後、監督のインタビューを読むと「この映画を観た時に、自分自身の兄弟のことを思い出して欲しい」と書かれていました。そしてその文章は「そして自分の兄弟、友人、同僚など自分や自分の夢をサポートしてくれている人たちとの繋がりを大切にすることの大事さを感じて欲しい。」と続いています。姉のことを思い出したわたし、監督の思うツボです。
監督のカールサン・カーデルは1982年にイラク北部のクルディスタンで生まれ、8歳の時に家族と共に難民としてスウェーデンにやって来たそうです。クルディスタンに住んでいた時のことを「近所の人も殺されたし、いとこや親戚も殺された。毎日の通学路にはフセインの兵士たちがいて僕たちを追い回していた。教室でも兵士たちがクルド語ではなくアラビア語で勉強しているか監視している。それは酷い弾圧だった。兵士たちは夜中に急に家に入ってきてすべてを破壊して、そしてまた出て行くんだ。」と語ります。そんな時に幼いカールサンが観たのが『ランボー』。彼はザナやダナが「スーパーマンは本当にいる」と信じたように、ランボーは実在していると信じ、自分たちの所に来てくれるのを願ったそうです。この話しからも分かるように、映画『Bekas』はカールサン自身とその兄の子ども時代の話しを基にして作られたのです。だからこそ、映画の中のちょっとしたエピソードなどがリアルに感じられ、子どもたちのイキイキとした姿を撮ることが出来たのでしょう。
Karzan Kader/ photo : Stockholms filmfestival |
実はこの映画、初めは30分の短編映画でDramatiska Institutet(現在のStockholms dramatiska högskola / 英:Stockholm Academy of Dramatic Arts)の卒業制作として作られました。2010年には学生アカデミー賞(Student Academy Award)、外国映画部門で銀メダルを獲得。2010年ストックホルム国際映画祭では1km Film部門でHonorable mention(選外佳作)を受賞し、その他にも様々な国際映画祭で賞をとっています。
ワールドプレミアの上映は前述したようにストックホルムのスカンディアで行なわれました。このスカンディア、以前『ストックホルム国際映画祭・ジュニア』の記事でもお伝えしましたが、あのエーリック・グンナル・アスプルンド(Erik Gunnar Asplund)が手がけた建物。中はとても広く、座席は572席あるとのことですが、それがほぼ満席になっており、映画が終わった時にはその満席の会場から大きな拍手が沸き起こりました。会場の雰囲気や周りの人たちからもその感動が伝わってきます。
上映後には、監督の話しを聞き質疑応答ができる、映画祭のイベントのひとつでもあるFace2Faceが行なわれ、その中で、撮影時の裏話や弟のザナ役の少年は普段も元気いっぱいで、とにかく子ども相手の撮影は大変なことなどのエピソードを聞くことが出来ました。
いちばん左がKarzan監督 |
終了後、わたしたちも監督と少しだけですがお話しをすることが出来ました。聞きたいことなどは色々あるはずなのに、いざ本人を目の前にすると「本当にすごく良かったです!!」というような言葉しか出てきません。30歳とまだまだ若い監督はとても気さくでニコニコと話す様子は普通の若者といった感じ。監督の話しによると、もう既に日本の会社がこの作品を買っており、いつかはまだ分からないけど公開も予定されているとのこと。最後に写真を撮らせて頂こうとしたら「じゃあ、一緒に撮る?」「僕が真ん中ね。」と記念撮影に。3人で撮った写真は宝物にしたいと思います。
最後に『Bekas』とは「失った」というような意味だそうです。スウェーデン語にはこのBekasという単語にぴったりとくる訳がなく、ただ「失う」というだけでなく「文化や友だち、家族などその人が持つもの全てを失った」という意味合いを含むそうです。カールサン監督はこの映画を通して「人は全てを失うような暗く辛い状況においても、自分の中の内なる声と夢があれば、人はそれを乗り越えることが出来る」ということを伝えたかったそうです。そして「そのような辛い状況を耐え抜くにはユーモアが必要である。」とも語っています。
photo : MovieZine.se |
夢に向かって真っ直ぐ進む2人の兄弟、日本の皆さんにも是非、観て頂きたい作品です。わたしたちはすっかりこの作品のとりこになり、スウェーデンで通常公開されたら、また観に行きたいと思っています。
インタビュー記事参照:Karzan Kader om lovordade "Bekas"
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